蒟蒻問答、吉田朗が過去作を順不同でふれていきます。前回の政犬交代からの「犬」つながりで、今回は日本の伝統工芸品の「犬張り子」と在日米軍再編岩国移転問題をテーマにした作品でいこうと思います。
作品No.43
犬張り子 錦帯橋に鷲
犬張り子 犬であり張り子である。
刺青 一度入れると、一生背負う。
この2つに「日本」が集約できると思い、国民文化祭やまぐち・2006 のために制作。山口県岩国市岩国一丁目の本能寺境内にて展示した。
在日米軍再編の一部、在日米軍厚木第5空母航空団の在日米軍岩国飛行場への移転問題をモチーフに、日本の伝統工芸品、犬張り子の胴体部に米国の国鳥 ハクトウワシ、岩国の名勝 錦帯橋、岩国市に隣接する広島県の県木 もみじ、うねる海、の刺青をいれた。(表記、名称は2006年現在)
以前から、自分は単純に造形性のみを追い求める彫刻はつくれないと感じていて、作品に社会性、批判性、ユーモア的なものを織り込むことで制作を成立させることが出来ると考えていました。
しかし、社会性、批判性、ユーモアなどいわゆるテキストで構成する部分の比重を大きくすると、制作していて満足感が得られず、造形性のみの作品を自ら否定しつつも、どこかで造形性を求める自分もいて、そのバランスで苦悩というか完成後の後悔というか反省というか問答というか‥そんなことを感じていました。
この作品は展示する場所が山口県の岩国市とはじめに決まっており、そこでの展示に向けて制作をしました。展示会場リサーチなどで何度か往復することが出来、場所に対する理解も深めながら制作ができました。連載彫刻と並行して制作をしていたので、連載彫刻のように社会的ソースをダイレクトに作品化するのではなく、一段階ひねるというか、ジャンプさせる工程がほしいなと思い、犬張り子というモチーフと在日米軍の岩国移転の問題を掛け合わせて制作してみました。
ちょうど基地移転に関する住民投票がこの年の3月に行われていた背景もあり、展示を見る方々の基地移転のテーマに関する意識が高く、展示を見てくれる方によっては、全く説明をしなくても、タイトルを見て作品の意図を完全に読み取ってくださる方もいらっしゃいました。
展示してみて、造形性と社会との距離感が上手くいった作品になったかなと、珍しく感じることが出来ました。
予備校時代からお世話になっていた美術作家の恩師に、いわゆるギャラリー的な場所ではなく、地方、地域での場所性と強く結びついたアートにおいては「その場所にある歴史や問題などをアートいう手法によって浮かび上がらせる」ことに意義があるのではないかと話をいただきました。
アートイベントを催す地方の場というのは過疎化などの問題を抱えているケースが多く、その場の活性化を願ってアートを用いることが多いように思います。そこでアートの力が問われるのだと思うのですが、「その場所に潜む特殊性、他との違差を浮かび上がらせることでその場で暮らす人の意識に働きかける」ことが出来れば、アーティストが展示が終えて去った後にも、その場で暮らす人の場所に対する意識に変化を生むことで、その場自体の変化を誘発する、触媒的な意味や力をアートがもっているのではないか ということかなと個人的には理解しました。
地方、地域アートイベントのもつお祭り的な経済的効果、集客というものがアートイベントの一つの側面だと思います。そこに行政との絡みが出て、公的予算が付き、大きな流れになっているのが現在だと思います。派手なイベント性という側面だけを見ていくとアートのもつ本来の力を削ぐ形にもなるのかなと個人的には考えてたりもします。このあたりに関しては藤田直哉さんが詳しく論じられていますね。
次回は、日米同盟つながりで F-15戦闘機と練習用1万円紙幣と米ドル札を用いて制作した作品 に触れてみようと思います。