蒟蒻問答、吉田朗が過去作を順不同でふれていきます。
前回の北朝鮮とミサイルをモチーフにした作品から、爆弾つながりということで、爆弾とロッキングホースをモチーフにして制作した作品に触れてみます。
作品No.59
情操教育シリーズ 木馬 <戦争と平和>
情操教育シリーズは子供用玩具に形を似せた彫刻作品群です。子供に玩具を与えられることができるのは平和や豊かさがあるからです。その平和や豊かさが、私たちが暮らす先進国や日本以外のどこかで行われている戦闘や、過去の戦争の上に成り立っている、ということを小さい子供達に伝えるという作品シリーズです。平和の為に戦争が起こるという、矛盾。大人が子供に与えるおもちゃに、忍び込む影として戦争、戦闘を想起させるイメージを潜ませる。そのようにすることで、私たちが断ち切ることが出来ずに次世代へ繰り越してしまう連鎖の現実を(作品を通じて)投影出来る、そのように考えました。愛くるしい玩具にこの世界の成り立ち(苛烈な現実)をこめる想起させる作品です。ミスマッチは現実社会の狂気を投影していると考えています。
木馬の胴体を爆弾型に改造し戦争と平和を行ったり来たりする様を揺れる木馬にこめました。
作品テキストより
この作品を制作していた頃、FRP(ガラス繊維強化プラスチック)単一素材での作品に行き詰まりを感じていて、FRPと木工と組み合わせることで、新たな展開が見つけられるかと思いトライしました。この時期には、木を材料にしたいくつかの作品を制作しています。技法的には彫刻技法ではなく、完全に木工で、パソコン上で図面を引いて、ジグソーで板材をカット、ルーターでカット面を整え、エッジにアール加工を施すといった家具屋に近い作業でした。板が厚くてジグソーの刃が逃げてしまい、カット面の直角が出なかったり、ルーターの回転数が早すぎて木が焦げまくったりと苦労はありましたが、技術的に新しいことを調べながらやっていくのは好きな方なので、木に触れて作っていて楽しかったです。
この作品を持って「川で芸術」という広島での展覧会に参加しました。会場が原爆ドームの上流の川原、というか土手の原っぱで、数日間のみの展示でした。原爆ドームと一緒にこの作品の写真を撮りたいと思っていたのですが、作品に若干の不謹慎感もあり、きちんと許可を取るのも難しいだろうと考え、
①撮影は夜、お忍びでおこなう
②作品は川原の展示会場から手運びする(車を使わない)
③照明はその場に元からあるもので撮る
④撮影時間は30分以内
という条件を定め、隠密的行動にてこの写真の撮影をしました。
事前に3箇所ほど撮影の候補地を見つけていたのですが、当日は平和記念の集会が行われていて、3箇所のうちの2箇所は人が多くてアウト。ドームから川を挟んだトイレの前のこの場所で、電灯の光で撮影しました。木馬の揺れがなかなか止まってくれなかったことや、慣れない長時間露光撮影の設定に苦労したこと、「堂々としてないと怪しまれるけど、堂々としてても怪しいわな、でもビクビクしてても‥」などと撮影しながらグルグル考えていたことなど思い出します。
平面を用いた形態的構成というのが、FRP単体では作りづらく、これまでの作品には形態に「丸さ」とそこから来る「甘み」が出ていたと感じていました。板材という異素材を入れることで、普段の形よりも造形的「甘み」が減らせて良かったかなと考えています。ただ、造形性や工芸的なクオリティーを高めていくことと、作品を形成する思考や視点に鋭さを保つことの両立はやはり難しかったです。視点の鋭さを保つにはノンフィクションの要素というのが効果的で、手をかけてモノとしてのクオリティーをあげていくとノンフィクション的要素は皆無となり、造形物として安定する代わりに、思考や視点というものが見えづらくなってしまうのかな?と考えています。形態と思考、モノとしての質の高さと視点の鋭さ、これらが噛み合う作品を作りたいなぁと、現在も思っています。
次回は、原子爆弾つながりということで、キノコ雲をモチーフにして制作した犬張り子シリーズの作品に触れてみようと思います。