Drawing for ' Porto ' は、2009年
『KOTOBUKIクリエイティブアクション』の一つ
として制作された作品です。
横浜は港町。
横浜市寿町とその近辺の町には、ワンルームの簡易宿泊所が立ち並び、
多くの港湾開発(などなど)の労働者たちが、ここを住まいとしてきました。
陽気なおっちゃんもたくさんて、笑いのない日はありませんが、
一方で、高齢化が進み、様々な課題も抱えている現実もあります。
「KOTOBUKIクリエイティブアクション」は、
様々なかたちで文化芸術に携わる活動の担い手たちが、ここを舞台として何かする、
その試みの総称です。
2008年にスタート。
広場でのパフォーマンスもあれば、一定期間町に住んで、住民と交流を重ねながら、書く・描くタイプの人も。
https://www.hamakei.com/column/185/
私、いしかわかずはる は、2009年、簡易宿泊所をリノベーションしたホステルの共用部への作品常設。
町を歩けば、昼間でも誰かはお酒を嗜んでいる。
こけて額から出血してるおっちゃんを心配すると、「ありがとう、大丈夫大丈夫」って笑ってる。
やけに絡んでくる人に困ったり、距離をとって様子を窺っている人に、少し寂しいような後ろめたさを感じたり、
内心ビビりながらも、何かを願うような誇りを持って、断続的に通いながら、制作していました。
旅行く人々、住んでる人たち、変わっていく町、
それぞれが無関係な風に交差し、或いは軽く深く関わり合う姿。
その空気感を投影し、かつ、きっとその行き先が明るいものであるようにと言祝ぐ意図を以って、
ノートの中から線を選び、糸で描き、
Drawing for ' Porto ' と名付けました。
作品を観賞できるのは、宿泊客とスタッフさん。
それ以外には、私・作者 または
KOTOBUKIクリエイティブアクションを主催する寿アルタナティブネットワークの関係者が案内する場合のみ。
いつでも自由に多くの人に見てもらえる環境ではありませんが、
作品もまたこの町の生活の場に共に在るということを、大切に思っています。
ホステルの名前は、2009年時点では「Hostel Porto Yokohama」でしたが、
その後、「Hostel ZEN」の別館として経営を引き継がれました。
作品の常設展示もそのまま引き継がれ、現在に至ります。
流れる年月の間に、私は広島に引っ越しましたが、
2023年の今回、Hostel ZEN さんの全面協力のもと、
泊まり込んでメンテナンスを実施しました。
かっこよく言うと「 アーティストインレジデンス in 横浜 」です。
「 雲の上 」という作品に向き合っている時、
Hostel ZEN別館の同じ棟内にある第五浜松荘に住んでいるおっちゃんと話す機会がありました。
質疑応答後、ずいぶん感心してくださったご様子。えらく褒めてくれた後で、おもむろに
「 わし、フランス語を勉強しとるんだあ 」
そして、ゆっくりと
「 じゅ・ぼわ・るめるすぃ。」
「 じゅ・ぼわ・るめるすぃ。」
と繰り返し、
「ありがとうっていう意味や。ありがとう。」
習いたてのその言葉を私も復唱して、おっちゃんに返しました。
おっちゃんが帰って行った後、じわじわと嬉しい気持ちが
胸に満ちるのが分かりました。
アートに何が出来るというわけでもないのに、この町で制作し、
町に踏み込むくせに、住む人との接触は積極的には行わない、
そういう距離を保ってきた私ですが、
心の中の境界線はもう、自然に解けたような気がします。
メンテナンスは、あと10年は必要ないだろうってくらいがっちり強化しましたが、
また、来ます。