いしかわかずはるからのメッセージとオンライン展「あした」の作品解説、前半です!
..........................
オンライン展「あした」をご高覧いただきましてありがとうございます。
2011年制作の一点と、最新作四点で構成してみました。新作は、2011年を振り返り一人のアーティストとしてひとつの答えを提示したいと思い、取り組んだものです。
それでは、さっそく作品解説。
私の作品は、糸を用いた線によって形成されています。そしてその素となるドローイングがあります。日々ノートとペンを持ってその時その場で、線を捉え…。ですから、先ずは、いつ何を見たのか、次にどんなふうに作品を作ったのかの順で解説します。途中で蘊蓄を挿むかもしれませんが、お付き合いください。
*「芋いのち」
ある日のご飯に頂いたさつまいものヘタを小皿にのせて水をあげ、小窓のふちに置いていたら見事に芽を出し数日でにょきにょきと成長しました。神秘的かつやや滑稽なる姿を描きとめたものです。
*「常緑の木」
紅葉の季節の終盤、なお鮮やかな深緑の葉たち。街路樹の足下に植えられ切り揃えられた灌木から飛び出すように常緑の木がのびていました。真ん中に入る斜めの直線は枝ではなく、街路樹を支える竹の棒。幹や枝よりも葉の流れに誘われるまま描きました。
*「卯月の若木」(緑のと、紫のと)、「あした」
この三つの作品は、同じ木々をモチーフに、同じ時に描いたものです。(「あした」に描かれた右端、左端の木の姿をよく見ると…あら不思議!)
去年四月一日正午頃、暖かさの中にまだ少しだけ寒さの残る日差しの中、ふと目を遣った先に、凛と佇む椿の若木を見ました。相変わらず笑顔はあったものの、普段楽観的な私も、三週間ずっと憂鬱と非力さの中にありました。そんなもやもやを切り裂くように、若木たちはまっすぐ、ただ葉を広げていました。その姿は、生命の正しい強さであり、私にとって無言の癒しでもありました。が、それよりも、「生きるしかない」という自明の決断を教えられた気がしました。タイトルの「あした」は、漢字で書くなら「朝」。英訳は「rising」にしました。
時は過ぎていきますが、人は振り返り思い出すことが出来ます。いくつもの場面やその時々の気持ちを繋げて、新たに何かを見つけたり、考えたり。私が、或る瞬間小さなノートに捉えた線を、サイズや場所や素材を変えて、作品として再び表現するのも、そういうことに似ているかもしれません。
六月、石巻市へ瓦礫撤去のお手伝いに行き、その時もやはり、傷ついた景色を癒すかのように草木は萌えていました。七月、アートフェア会場においてインスタレーション作品を制作することとなり、題材にはこれしかないという思いで、四月に見た若木を選びました。十二月、2011年を振り返った時には、その姿は私にとって欠かせないものとなっていました。
私の作風、見た目にシンプルなので、「省略の美」と評されることがあります。また、日本の特徴的な美意識の一つ「侘び寂(ワビサビ)」と関連づけて下さる方もいます。えへへ、ありがとうございます。でも、未だそういう洗練の世界に到らない自覚はあります。そして、本人としては、余計なものを削ぎ落すとか、省略するとかいった引き算ではなく、目に見えるすべてのものの中から、ひとつひとつを捕まえてくるといった感覚です。何もないところに、一つの線を描く、そこに響きのようなものが始まるなら大成功というわけです。
ただし線は、確固たる実在ではなく、その時そうように見えたかたち、その時そのように読み取った流れ、その時そのように描いた跡と言えます。線を描くということは、ちょっと大袈裟ですが、世界を自分で決めつけていく行為かもしれません。受け取りながら創作しているといったところでしょうか。え〜、細かな持論を延々申しておりますが兎にも角にも、捉えた線は、大切なデータです。視覚を通して人の心に届いてはじめて作品は完成すると考えています。では、どんなふうに届けたいかというところに、いよいよ「糸」が登場します。
ノートにペンで描いたドローイングそのままでいいじゃないかというご意見ご批判もあります。そりゃぁそうだなと思ったりもするのですが、自由に飛び出していろんな場所へ様々な大きさで現れた方が楽しいはず。そう、線は旅をするんです。そんなわけで、いろいろと展開しています。時には人んちの壁に、時にはキャンバスに。「データ」を実空間に於いて顕そうとするとき、私の「線」には、「糸」の持つ連続性、象徴性、そして温かさを内包する質感が、とっても合うのではと感じ、初めて手に取ったのがかれこれ8年前。毎回秘かに何らかの実験要素があり、進むほどに可能性が増えいろんな表情を見せてくれるので、進むままに進めています。今ではすっかり私の表現に欠かせない相棒となりました。今回はオンライン展ということで、画像による作品発表ですが、作品現物そのものがメディアだと考えています。現物でないと伝わらないものがたくさんあるので、ぜひ、本物見て下さいね。※
(後半へつづく。)
※実物の作品をご覧になりたい方はこちらからお気軽にお問い合わせください。