アーティストを応援してくださる皆様、関係者各位、
2023年2月23日に吉田朗の作品「渋谷猫張り子」が無断で全く違う姿に改変されてしまったことを公表して以来、皆様方から大きなご声援をいただき、誠にありがとうございます。4月半ばに作品とその所有権を作者の手元に取り戻して以来、吉田は日々黙々と修復作業に取り組んで参りました。精神的にも肉体的にも厳しい状況下で、作業を続ける唯一の原動力はお寄せいただくあたたかいお言葉の数々でした。作品につけられてしまった傷に作者自らが向き合うことは辛く苦しいことでしたが、献身的な作業を半年超に渡り続けた甲斐があり、この度作品の修復が無事に完了しました。皆様方のひとかたならぬご声援に改めて、心から感謝申し上げます。
修復作業を続ける一方で、私達は作品の所有者であった三井不動産株式会社(以下、三井不動産)及び、実際に作品の改変を行ったマザーエンタテイメント株式会社(以下、マザー社)との間で問題解決に向けての交渉を続けてきました。
この度、作品の所有者であった三井不動産がようやく、改変に至る以下の事実関係を認め、謝罪文の提出が行われることになりました。
・マザー社から三井不動産に提出された工事申請書には、作品の図とそのすぐ近くに「招き猫ブラックアートラッピング」「マルチカラーライティング」等の文字情報が明記されていたこと。
・(アーティスト側と三井不動産との)当初の合意に基づき、本件作品を良好な状態に維持管理すべき立場にあったにもかかわらず、改変が行われることを認識していながら積極的に確認するに至らず、その点の対応について、不十分なものであったとこと。
一方、実際に作品の改変を行なったマザー社からは昨年10月3日に、「三井不動産から許可を得て改変を行った」という旨の回答は得たものの、作品返還後に改めて再開した交渉では、「マザー社と共に確認を行なった」という形で、三井不動産から回答が届くのみでした。直接、回答を得ることは一度もなく、作品の設置店舗であった「SOAK」の前運営会社・株式会社BAKEKRU(旧・株式会社東京ピストル)とマザー社の間でどのような引き継ぎが行われたのか、またこちらから問い合わせをした後に、改変した作品の写真を「SOAK」のウェブサイトのトップページや施設案内のPDF、SNS等に掲載したことに対して、どのような見解を持っているのかなど、質問する段階にも至りませんでした。
アーティストの吉田は本件によって精神的、肉体的に著しく疲弊したのはもちろん、修復作業のために決まっていた複数の展覧会への参加も出来なくなりました。作家活動を制限せざるを得なくなった上に、本件解決のために依頼した弁護士費用も1年以上に渡り積み重なっている状態です。そうした経済的負担の一部も三井不動産から補償されることになりました。
正直なところ、本件に関わる3社による説明の全てに納得したわけではありません。
ただ、三井不動産からは謝罪文の提出があること、同社より被った損害の一部も補償されること、そして何よりも「渋谷猫張り子」の修復が完了したことから、これ以上本件の追及を行い、時間を費やすことは賢明ではないと判断しました。よって、本件を終結させるための合意書を三井不動産との間で締結する運びになったことをご報告致します。
この1年超に渡り、本件を最善の形で解決しなければならないという責任の重さを感じ、重圧に押し潰されそうな日々を過ごしてきました。この事件が、この先の日本における個人や企業等団体のアートに対する関わり方や、知的財産権に関する意識の向上に、少しでもお役に立つことができたら幸いです。その時はじめて、私達はこの辛く苦しい体験から報われ、「自分達の闘いは決して無駄ではなかった」と感じられることでしょう。
吉田朗が生み出した「渋谷猫張り子」は今回の事件を経て、皆様あっての作品となりました。今後、この作品がたくさんの福を呼び込む存在になり、ご支援くださったお一人お一人に恩返しをすることができたら、そんなに嬉しいことはありません。
皆様方へのお礼と作品修復完了をご報告する機会として、2024年1月3日から蘇った「渋谷猫張り子」のお披露目展示を作品生誕の地・渋谷で行うことが決定しました。会場は渋谷駅に直結した「渋谷ヒカリエ 8/CUBE」です。
新年に「渋谷猫張り子と仲間たち」展で皆様にお会いすることを、心から楽しみにしております。
(⇨ 展覧会の詳細はこちらから。)
アーティスト 吉田朗
有限会社ユカリアート代表 三潴ゆかり